「今こそ、金沢のまちなかで“センシュアス・シティ”を語ろう」/いままちトークvol.3【特別編】レポート|ゲスト:島原万丈氏

この10年間で「金沢らしさ」は変わったのか

今こそ、まちにでて“まちなか”を語ろう。まちなか編集舎が主催する「いままちトーク」。今回は2025年12月6日(土)に金沢市の白鷺美術さんにて開催した、第3回(&特別編)のトークイベントの様子をレポートいたします。

ゲストは“センシュアス・シティ”の提唱者、島原万丈さん!

ゲストは、株式会社LIFULL/LIFULL HOME’S総研所長の島原万丈さん。『Sensuous City [官能都市] 』という概念の提唱者であり、新たな物差しで“まちを測り直す”ための調査を長年にわたり続けています。

島原万丈(しまはら・まんじょう)|株式会社LIFULL LIFULL HOME’S総研 所長。/1989年株式会社リクルート入社。グループ内外のクライアントのマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略策定に携わる。2005年よりリクルート住宅総研へ移り、2013年3月リクルートを退社。同年7月、株式会社LIFULL(旧株式会社ネクスト)に設置された社内シンクタンクLIFULL HOME’S総研所長に就任。
LIFULL HOME’S総研がこれまで行ってきた調査研究レポート。WEBでもPDFが閲覧でき、在庫があるものは無料で(送料のみ自己負担)送ってもらうこともできます。

トップクラスのセンシュアス・シティ だった金沢が大降格!
「どうした、金沢!?(汗) 」

効率性や経済合理性だけでは測れないまちの幸福度や満足度の指標であるセンシュアス・シティ。実は島原さんが“センシュアス・シティ”をテーマに金沢で講演するのは、これが2度目。初回は2015年、LIFULL HOME’S総研が実施した調査で、金沢市が地方都市としてはトップ(東京、大阪の都市に継いで8位)に輝いた際でした。(その際の島原さんによる特別寄稿はこちら

…ところが、あれから10年。同テーマで行われた2025年の調査では、金沢のセンシュアス・シティ度は全国で36位と大きく降格!「どうした、金沢!?(汗)」という島原さんからの緊急提言もあり、今回いままちトーク“特別編”として、調査の分析結果を教えていただきます。

2025年12月6日に開催された「いままちトークvol.3 【特別編】」

はじまりは、均質化する“まち”への危機意識

元々は住宅選びにまつわる調査を行う研究員だった島原さん。“まち”に調査対象を広げ始めたのは「家を選ぶ前に“まち”を選ぶわけですが、その“まち”がどこも均質化してきているのではないかという強烈な問題意識があった」と語ります。

「このまち、なんかいいよね」を数値で語る必要性

「前回センシュアス・シティにまつわる調査を行ったのは2015年。東京でも再開発が進んでいる時期で、飲屋街や横丁など“都市のダークサイド”が消えつつありました。

“土地の合理的な利用”という名分のもと、“容積率”や“機能性”ばかりで再開発が語られてしまい、どこの街も似たような風景になってしまった。これが『良好だ/快適だ』ということにされているけれど、それはちょっと“物差し”が違うんじゃないかと。“都市を測る物差し”自体を変えないといけないと思いました」

「だからといって『このまち、なんかいいよね』と感覚で語っているだけでは『それはお前のノスタルジーだ』と一蹴されてしまいます。だからこそ“数値”として測りたい。それがこの調査をはじめた動機です」

なぜ、もう一度 “センシュアス・シティ”なのか?

「同じテーマを2度やらない」をモットーとして、これまで毎年新たなテーマを設定し調査研究を主導してきた島原さん。2025年にあえてもう一度「センシュアス・シティ」をテーマにすることに決めたのは「再開発が今曲がり角にきている。完全に潮目が変わりつつあると感じたから」だと島原さんは語ります。

「建築費の高騰で塩漬けになった再開発計画や、建ててもテナントが入らないという状況。もはや容積率の緩和に軸足を置いた従来の都市再開発プロジェクトには限界が生じつつあることは明らかでした。そこでついに国土交通省も方針を見直し、都市の固有の魅力に着目し地域資源である既存ストックの活用を促進する方針へと転換しています。潮目が変わる今だからこそ、あえて10年前と同じテーマでやろう、やる必要がある、と感じました」

都市を「動詞」で評価する

調査では都市体験を以下の 8指標・32項目で構成。基本的に10年前と同じですが、時代や価値観の変化などにも対応し、指標や言い回しは少し変化しています。

関係性(4指標)

  1. 親密な共同体(近所づきあい、行きつけ)
  2. ひとりの公共性(匿名で一人を楽しめる)
  3. ロマンス
  4. 文化・娯楽

身体性(4指標)

  1. 食文化
  2. 街のライブ感
  3. 都市のリトリート(自然・休息)
  4. ウォーカブル(歩く楽しさ)

また「Sensuous City」調査の大きな特徴の一つが、施設や機能といった“名詞”や、個人によって差が出る“形容詞”ではなく、「そこで何をしたか」という動詞で都市を評価している点。「した/していない」という事実ベースの問いにすることで、感覚的な価値を一定の精度で捉えられるように考えられています。

都心の逆襲と、はじきだされた元祖センシュアス・シティ

そして2025年の調査結果がこちら。金沢は8位から36位へと大降落。その分東京・大阪・福岡などの大都市の都心部が上位を席巻しています。「前回とは指標が少し変わっているので、単純に比較してはいけない」と前置きした上で「この結果は、正直我々調査チームにとっても“想定外”だった」と驚きを隠せない島原さん。

「焼畑的な開発」から「育てるまちづくり」へ

背景には、いくつかの変化の重なりが考えられると島原さん。一つには国土交通省の政策転換、そして都市部における「エリアマネジメントの広がり」があるといいます。

「ランキングの上位を大都市の都心部が占めたとはいえ、再開発が旺盛だったエリアが一律に堅調ということではありません。首都圏のランキングの変動をみても、『タワマンを建てたら、はい次』といった“焼畑農業的な再開発”がされただけで、目立ったエリアマネジメントがなされていない再開発都市は順位を大きく下げています。一方ランキング上位のエリアではデベロッパーの戦略は“責任を持って育てるまちづくり”に変わってきています」

そして二つ目にあげられたのは「都心が弱点を克服しつつあること」。

ローカルフードや自然は、これまでは“大都市の弱み”であり、逆にいえば“地方都市の強み”だった。けれどこれが2025年では都市部で上がって、地方都市で下がっていることがわかります。今では都心のど真ん中に緑豊かなオープンスペースが整備され、そこで醸造されたクラフトビールが飲めるし、近郊の生産者さんがつくった食材が食べられるようになっています。大手デベロッパーも腰を据えたまちづくりを行う中で“都市が弱点を克服しつつある”といえるのではないでしょうか」

アフターコロナが“定着”してしまっている?

そして、三つ目に島原さんがあげたのは「アフターコロナ後の行動の変化の定着」。

「想像していた以上に、コロナが尾を引いていた」と島原さん。「 街へ出かける行動が減り、個人店での飲食、特に“飲み会”が大きく減少しています。代わりに自宅近くでの一人行動が増えている。コロナのマインドが回復していないというか、もはや“定着”してしまったのかもしれない」。その傾向は人口規模が小さい都市ほど顕著であることが今回の結果につながっているといいます。

センシュアス・シティは、つくれる。

様々な要因が考えられる中で「“センシュアス・シティ”の意味自体も変容してきているのではないか」と島原さん。

「この10年で、センシュアス・シティは『残っていたもの/守られていたもの』から、『つくられていくもの』に変化したと感じています。つまり成り行きまかせにするのではなく、“つくっていく”という意志がこれからは重要になってくる。これはノスタルジックな感性では残念な部分はありますが、その一方でまちづくりに希望をもたらす結果とも言えるのではないでしょうか」

「どうした、金沢」考察。
市民がまちで遊ばなくなっている…?

ここからは「金沢における変化」に絞って考察いただきました。特に深刻なのは、「金沢市民がまちで遊ばなくなっている」ことだと島原さんは語ります。

「この10年間での外食代の支出額の減少率が県庁所在都市の中でワースト1位。もともと外食にかける金額が大きかった都市だけに、減り幅も大きい。飲酒代の減少率もワースト5位、教養娯楽サービスの減少率もワースト7位です。また、服飾にかける金額も減っているので、“おしゃれしてまちに出る”ということも減っていると考えらえます」

「これが金沢のこの10年間の悲しい変化です。この辺りみなさんは実感としておありかどうか、この後の小津さんとのトークでうかがっていきたい」と島原さん。ここから金沢R不動産/(株)ENN代表の小津誠一との対談トークです。

対談トーク:島原万丈 × 小津誠一
新幹線開業後、この10年どうだった?

「まちなか編集舎」を運営する金沢R不動産/(株)ENN代表の小津誠一。

小津:前回の調査が行われた2015年は、北陸新幹線の金沢〜長野間が開業した年でした。金沢としても様々な期待感を抱いていた時期だったと思います。けれど実際蓋を開けてみて、どうだったかといわれると…。

島原:経済でいうと「観光」は増えていますよね。けれど観光で増えた分が市民所得につながっているかというと、増えていない。なぜかというと外資系はじめ県外資本が多いから。
もう一つは、観光客数は40%くらい増えたけれど、ホテルの客室は60%くらい増えたといわれています。完全に過剰供給ですよね。
また「食」の分野が大きく減っている理由に、長年地元に愛されてきた飲食店が観光客たちに占拠されてしまい、地元の人が予約が取れないという理由も一つあるのではないかと。

小津:物価が上がっているので、食費にかかる金額自体は当然上がっています。けれど所得は増えていない。そんな中お店は値段を上げて、観光客向けにシフトしている。それで地元の人が行かなくなった…というのが一つ理由としてあるのでしょうね。
せっかく高いお金を払ってくれる人が押し寄せているのだから、これまで薄利で頑張ってきた飲食店は儲けてほしいという思いもありますが、地元の人が弾き出されてしまうのは…難しいところですよね。

はたして金沢は「オーバーツーリズム」なのか?

小津:「オーバーツーリズム」という言葉を金沢でも耳にすることがありますが、それは事実なのか、そうではないのか。個人的にはこれくらいでオーバーツーリズムというのはちょっと懐が小さいのではと思ったりもしますが(笑)。

島原:全然ですよ。ヨーロッパでいうところの“オーバーツーリズム”とは「地元の人が住めなくなる」というレベルです。例えば「エアビーのほうが何倍も儲かるから」ということでアパートを追い出されたり、または家賃を急に上げられたり…。単純に“混んでいる”というレベルの話ではありません。

金沢が変わろうとしている今

小津:金沢は、今まさに変化の時期を迎えているように見えます。都心軸が変わろうとしている中で、来春には県と市の首長選挙も控えている。うまく行っている再開発と、そうでないものの違いって、なんだと思いますか?

島原:まず「空間の質」というのは一つ大きいですよね。後々にも使いやすいように考え抜かれたオープンスペースがあるかなど。良くない例でいえば、タワーマンションの一階部分によくある「公開空地」は上階に住人がいるから「あまり使ってしてほしくない」という意思がかなり強く働いています。

次に、その「空間」を使い倒すために「エリマネジメント団体があるかどうか」。別にイベントを次々にやればいいということではなくて、“行政では手が届かないところ”まで細やかに運営していける団体があるかどうかは継続的なまちづくりをしていく上で大きいです。

もう一つは「ミクストユース」という考え。今回の調査で「都心」がなぜこんなによくなったかというと「都心に住む人が増えた」から。これまではオフィス街/飲み屋街/ベッドタウン…と用途が分かれていましたが、テレワークの普及などでそれらが混ざりあってきています。そういう意味では金沢は元々それができている街なのでポテンシャルが高い。

センシュアス度に最も影響があるのは、
「個人経営の多様な飲食店」

小津:島原さんのプレゼンの中にあった「センシュアス・シティは、つくれる」という言葉が印象的でした。センシュアス・シティであるためにはどの要素が重要なのでしょうか?

島原:僕らがこれまで調査を行ってきて「センシュアス度」に最も影響があるのは、「個人経営の多様な飲食店」だということが分かってきました。日本人の都市生活のコミュニティというのは、“飲食店”をベースに繰り広げられているという可能性がある。欧米だと自宅に招くことも多いですが、日本だとそれが飲食店になるわけです。あくまでも「個人経営の飲食店」ということが大事で、チェーン店だと街のセンシュアス度にとって逆効果になってしまいます。

島原:これだけ「飲食」が大事なのに、行政で「まちづくり」を担っている方たちにとって、飲食店は「管轄外」になる。担当は「保健所」ですが、保健所にはまちづくりの視点はありません。「まちづくりに個人経営の飲食店を絡めていく方法」をちゃんと考えないといけないと思います。

「目的合理性」と「価値合理性」

小津:リノベーションに関わっている身として、日本中にもう「床」は溢れていることを痛感します。これ以上床面積を増やしたところで「空き家」が増えるだけ。なのにそこに大きな補助金を投じて再開発を進めて、もはや経済的な合理性にすらかなっていないように思います。

島原:「合理性」と一口にいっても様々な合理性があるわけです。社会学者マックス・ウェーバーは「目的合理性」「価値合理性」と大きく二つに分けて説いています。「目的合理性」は「ある目的を達成するために、最も効率的・計算可能な手段を選ぶ合理性」であり、「価値合理性」とは、善か・美しいか・正しいかといった“それ自体が価値あるもの・正しいと信じるもの”に従って行為する合理性のことです。

しかし、近代における「合理性」というのは「目的合理性」のみを指して使われています。目的それ自体の価値を深く問うよりも、“コスパ”や“タイパ”などの「効率的な手段」のほうが重要になってしまっています。

今こそ「金沢らしさとは何か」議論が必要

島原:都市再生の議論で「容積率が〜」といった“手段”の話は延々とされるのに、そもそも「都市再生とは何か」「都市の快適さとは何か」といった“目的”の部分の議論が全くなされていない。今こそ「何が価値なのか」という議論が必要だと感じています。

小津:まさにその「価値合理性」を金沢で実践してこられた方がいたなぁ…と、故・山出保元市長のことを今思い浮かべていました。

島原:そうですね。僕も10年前金沢にうかがった際、山出さんの著書である『金沢らしさとは何か』や『金沢の気骨』を拝読させていただきました。

金沢が変革期にある今、「何を/どう建てるか」といった手段の話ばかりになってしまうのは非常に危険だと思います。まさに「金沢らしさとは何か」ということを、今一度議論することが大事なのではないでしょうか。

(以上対談より抜粋)

その後の来場者からの質問タイムでは「これまでは男性社会的“夜のセンシュアス度”が優位だったといえる金沢で、時代が変わる中どうしていくべきか」「行政手動の大きな再開発と、市民の草の根的な活動をどうハイブリットしていくのか」といった鋭い質問を交えながら議論が展開されていきました。
白熱したトークイベントの後、希望者による懇親会も開催。島原さんを囲みながら、これからのまち、これからの金沢についてじっくりと語り合いました。

徹底的に「感覚を数値化して抗う」ことを続けてこられた島原さん。レポートではお伝えできなかった膨大な調査結果はPDFのダウンロード&郵送していただくこともできるので、興味がある方はぜひご覧ください。島原さん、そしてご参加いただいた皆様、ありがとうございました!

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いままちトーク/合言葉は「今こそ、まちなか」。

「暮らす」「働く」「遊ぶ」の拠点が、まちなかから離れていく。そんな状況に一石を投じるため、ゲストを招いたトークイベントを企画。まちなかの”今”を可視化したり、いつもとは違う視点で捉えたりしながら、魅力を見つめ直す機会をつくります。

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文:柳田和佳奈
写真:亀山文音